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「行動観察」の第一人者、
松波晴人さんに学ぶ創造的に生きるための習慣

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ライオンでは、「より良い習慣づくりで、人々の毎日に貢献する(ReDesign)」をパーパス(存在意義)に掲げています。

就職や恋愛、結婚、子育てなどの人生の節目での選択。料理の献立やどんな服で出かけるかなど日々の暮らしでの選択。私たちは毎日の生活のなかで何が正解とも言えないさまざまなことに直面し、あまり意識しないかもしれませんが、選択することが習慣になっています。

必ずしも正解があるわけではない選択に、「どうしたらよいのか」「何がベストなのか」と悩むことも多いのではないでしょうか。そんな選択に迫られたときの手助けとなるのが、「フォーサイト・クリエーション」という方法論。人の行動原理に基づき、新たな選択肢を導き出す考え方です。

今回お話をうかがったのは、この方法論を確立し、『ザ・ファースト・ペンギンス - 新しい価値を生む方法論』の著者としても知られる松波晴人さん。松波さんの考え方は、私たちの「選択する」という習慣にどう活かすことができるのでしょうか?

あたりまえの日常に「なぜ?」を見つける「行動観察」

「フォーサイト・クリエーション」の最初の一歩となる「行動観察」は、対象となる人を観察して、その結果から本人も意識していなかった潜在的なニーズをくみ取る手法として、ビジネス分野で注目を集めています。アメリカ・コーネル大学大学院にて「行動観察」の基礎を学び、いち早くその理論を日本に持ち込んだ松波さんが、課題の本質を見つける方法を教えてくれました。

松波:アンケートやインタビューでヒアリングする場合は相手のなかでちゃんと言語化できている要望や不満だけを受け取ることになります。一方、まだ言語化できていない課題を見つけなければいけないときには、実際にその場に行って観察する必要があります。

現場では意外なこと、想定していないこと、思いもしないようなことが起こっています。「なぜそうなのか?」ということを人間の深い理解に基づいて探るのが「行動観察」という手法です。目の前の出来事を解釈するときに、単に「こういうことだ」と決めつけるのではなく、先入観を取り払って考察する、これが肝心です。

松波晴人さん|LION Scope | ライオン株式会社

松波:たとえば、高齢者向けサービスを考えるために高齢者の方の「行動観察」をさせていただいたことがありました。そのとき、あるひとり暮らしの男性の家に行ったのですが、お話をしていたら、ひとりでは食べきれないような、両手で抱えるぐらい立派な新巻鮭が届いたのです。

何人前もありそうな鮭が届いたところで、興味がなければ「お好きなんだな」で終わってしまいそうな出来事ですが、松波さんはそこからさらに一歩踏み込んで潜在的な思いを探ろうとします。

松波:「おひとりで食べるのですか?」と聞いたら「近所に配る」と、回答が返ってきたのです。そこで、「なぜ配るんだろう」という、さらなる疑問が沸きますよね。

それ以外の方々も、観察するなかで自分以外の他者であったり飼っているペットであったり、周囲の誰かに対して喜んでお金を使っていました。高齢者の方々の生活についての先入観を取り払って、「なぜ?」を尋ねていくうちに共通して見えてきたのは、「誰かに貢献したいと思っている」という点でした。

もともとは高齢者にどういうサービスを提供しようかと考えていたけど、それ自体が間違った問いであり、「どうやったら高齢者の方たちがもっと人に貢献できるか」を考えて、それをサポートしたほうが喜んでもらえるというのがわかったのです。

正解のない人生で未来の自分を見つけるための方法論とは

「行動観察」で見つけた事実(ファクト)に対して、多方面から集積した知見(ナレッジ)を駆使して解釈(インサイト)を導き出す。そして、そこから“クリエイティブな発想”を持って未来への展望(フォーサイト)を見つけることが、「新しい価値」を選択する「フォーサイト・クリエーション」だと話してくれた松波さん。

「フォーサイト・クリエーション」|LION Scope | ライオン株式会社
図のプロセスを繰り返し実施することで、正解のない問題に取り組む方法論「フォーサイト・クリエーション」

松波:見つけた「フォーサイト」をもとに「アクション(行動)」を起こして、その結果に対する「リフレクション(内省)」について考えるというプロセスを繰り返す。これを「正解のない問題に取り組むための方法論」としてビジネス向けに紹介しているのですが、実はこれって特別なことではなく、誰もが日常生活で行なっているはずなんです。なぜなら人生って正解がないので(笑)。

誰と結婚するかとか、どういう仕事に就こうかといったことは正解がないけれど決めなければいけないわけです。そのためには、誰もが無意識だとしても、起こっている事実をよく見て、自分の価値観と照合して、未来を想像して決めます。そして行動してみて、その結果をみてまた考えます。私はデザインや心理学などを長年学んできたなかで、具体的にその方法を言語化したということになります。

そしてこれは人生のプロセスであるとともに「学び」のプロセスでもあるのです。重要なのは「行動」。行動しない限りは学びにはなりません。さんざん事実を集めて、問題はこういうことではないかと解釈して、こうしたほうがいいのではないかと考えたけど、行動せずに妄想しただけでは学習はゼロなんですよね。

個人的な事の方が分かりやすいので、私はすぐに恋愛関係にたとえるのですが、気になる相手をデートに誘うときに「あの人はこんなことを言っていたな」「こんなのが好きじゃないかな」と推論して、こういうお誘いの提案がいいのではないかと考えても、言わなかったら何も起こりません。言って断られたら「なんで断られたのだろう」と学習することができるのです。

『ザ・ファースト・ペンギンス - 新しい価値を生む方法論』(講談社)|LION Scope | ライオン株式会社
松波さんの知見を言語化した『ザ・ファースト・ペンギンス - 新しい価値を生む方法論』(講談社)

クリエイティブな発想は「鍛えれば誰でもできる」

松波さんが示してくれた方法論は、確かに私たちが習慣的に選択する際に無意識に行なっている思考ですが、学びのプロセスとして言語化して流れを把握することでクリアに考えることができるようになった気がします。それは、個人的なことに対しても十分に応用できると感じました。

ただ、客観的な事実から未来を見据えた展望にたどり着く過程には、“クリエイティブな発想”という、天才にしかできないようなひらめきが必要になるのではないかという疑問もよぎります。しかし、決してそんなことはないと松波さんは言います。

松波:そもそもクリエイティブってどういうことだと思いますか? じつはアカデミックの世界でも「なにがどうなったらクリエイティブなのか」という、みんなが合意した定義はなく、さまざまな説があります。私は、次の二つのやり方を組み合わせることがクリエイティブを考える際に理解しやすいのではと思っています。

ひとつ目が、それまでの常識を新しい視点や発想で前向きにつくり直す「リフレーム」です。つまり、同じものを見ても違う解釈ができるということ。先ほどの高齢者の行動について「寂しいのかな?」というのもひとつの解釈ですし、「人の役に立ちたいのではないか」というのも解釈です。

ふたつ目は「統合」ですね。異質なものをひとつに合わせる。たとえば、又吉直樹さんの小説は「純文学」と「お笑い」の統合ですし、映画の『スター・ウォーズ』も一見西洋的なSF作品ですが、黒澤明へのリスペクトやサムライの要素(特にフォースという概念)といった東洋思想が組み込まれています。そのように、これまで組み合わさってこなかったものを組み合わせるのが「統合」です。

そのふたつを駆使できるのがクリエイティブということだと思います。たしかに、どちらも難しくてすぐに実践するのは難しいでしょう。だけど、「天才しかできない」なんてことは絶対にありません。

視点|LION Scope | ライオン株式会社
視点を変えるだけで同じものでもさまざまな形に。そして、視点の変え方は鍛えることができる。

松波:たとえば、私たちはみんな言葉をしゃべっていますよね。これは学校で教えてもらう以前に、幼児期に覚えたことです。その時期に言葉をしゃべれるようになろうと思ったら、聞いた言葉を「リフレーム」して「統合」しないと無理なのです。つまり、すべての人は幼少期にリフレームと統合をさんざん行なった結果、言葉を紡げるようになっているのです。

みんな無意識のうちにクリエイティブなことをやっているんです。筋肉みたいなもので、いまは衰えていてもトレーニングすればできるようになるはずです。

「世間の評判だけで自分の価値を決めない」よりよい人生へのヒント

ビジネスシーンで注目され、多くの企業や組織が取り入れている松波さんの方法論。今回のお話を通して、日常生活でも活用できることに気づくことができました。そして、最後に松波さんは個人が「どうやって生きていきたいか」を選択する際にこの方法論がより役立つヒントを教えてくれました。

松波:近代経済学の父と呼ばれるアダム・スミスが書いた『道徳感情論』という本には「共感が大事だ」と書いてあります。相手と同じ人間ではないから完全な共感はできないけれど、共感する努力は絶対にしなければいけないと。音楽にたとえると、まったく同じ音を出すことはできないけれど、相手をわかろうと努力したらそれがハーモニーを生み出すと書いてあるんです。このハーモニー、共感が重要になると思います。

また、その本には「内なる公正な観察者を持て」と書いてあります。世間でどう思われているのかばかりを気にしているのは、自分のなかに「自分を客観的に見ている自分」がいないからだと。

自分が意図してやったことに対して、自分はよかったと思っても世間では受け入れられなかったり、その逆もあったりします。つまり、自分の評価と世間の評価が違う場合です。そんなとき、「自分を客観的に見ている自分」がいなかったら、世間の評判だけで自分の値打ちが決まりますよね。しっかりとした知的で誠実な情報を集積して、「自分はどう思うか」という、公正な観察者を自分のなかに持つことが重要なのです。

松波晴人さん|LION Scope | ライオン株式会社

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