水が主体の目薬組成の中で、有効成分であるビタミンAは油性であるため、まさに水と油の関係で、単純に混ぜただけでは均一になりません。また、水溶液中のビタミンAは分解されやすいため、ビタミンAが目に有用であることが分かっていても、なかなか配合しにくいという課題がありました。さらに、薬局・薬店で販売するOTC目薬は、薬事法上「澄明(澄んで透明)」であることが求められており、このことも目薬へのビタミンAの配合をより困難にしていました。
油性のビタミンAを目薬に配合するために必要なのが、界面科学の力でした。洗剤開発など長年にわたる界面科学の技術蓄積を持つライオンでは、今から約20年前、界面活性剤を使って、OTC目薬にビタミンAを安定配合する技術をいち早く確立しました。
20年以上販売されてきた「スマイル」の目薬。しかし、「もっとよい目薬をつくりたい」という担当者の思いは強く、綿々と技術開発が続けられていました。技術課題のポイントは、「液が白濁することなく(=透明で)より多くのビタミンAを配合し、かつ配合したビタミンAが目の角膜により多く吸着されること」です。 ところが目薬に配合されたビタミンAは、液中で界面活性剤に包まれた形で存在しているので、より多くのビタミンAを配合しようとして界面活性剤の量を多くすると、目の角膜への吸着性が抑制されてしまいます。一方、吸着性を優先して界面活性剤量を減らせば、エマルションの粒子径が増大して、液が白濁してしまいます。
組成開発では、エマルションの粒子径が配合プロセスによって変えられることに着目し、従来の製法を一から見直しました。エマルションの粒子径を可視光の波長より充分に小さくすることができれば、溶液を透明にすることができます。まず、角膜の代わりにリポソームをモデル物質とした評価系でビタミンAの吸着量を測定し、現行組成よりもビタミンAの吸着量を向上できる界面活性剤量を把握。その組成で配合プロセスの検討を徹底的に行いました。その結果、配合時の水相温度を従来よりも高く調整することで粒子径を小さくできることを見出したのです。さらに、この溶液を最新の構造解析技術である小角X線散乱法(SAXS)を用いて解析した結果、ビタミンAは非常に小さいナノレベルで水に分散している「ナノエマルション」の状態であることも明らかになりました。
(※)
界面活性剤の量比だけでなく、製造条件にも踏み込んだ技術開発により、より少ない界面活性剤量で「液が白濁することなく(=透明で)より多くのビタミンAを配合し、かつ吸着性も上げること」に成功したのです。
関連情報