皮膚(肌)は、身体全体を覆う最大の臓器であり、外界からの刺激や異物の侵入を防いだり、体内の水分が失われるのを防ぐなど、重要な役割(バリア機能)を果たしています。このバリア機能の低下は、乾燥肌などの肌トラブルにつながることが知られています。
生活者調査によれば、年齢とともに乾燥などの肌悩みを感じるようになった40歳前後の女性の約9割が、スキンケアをしても乾いてしまうと回答しています※1。乾燥肌に対して肌の表面にうるおいを与えるケアだけではなく、肌本来の強さを引き出すことで肌悩みにアプローチする技術開発を進めています。
皮膚は、「表皮」、「真皮」、「皮下組織」から成り、さらに表皮は「角質層」、「顆粒層」、「有棘層」、「基底層」で構成されています(図1a)。皮膚の最外層に位置する角質層では、外部刺激である紫外線や乾燥などから身体を守る、第1のバリア機能を担っています。一方、角質層よりも内側にある顆粒層では、「タイトジャンクション(TJ)」と呼ばれる細胞同士を繋ぐ密着結合が第2のバリア機能を担い、体内の水分保持に関わっています(図1b)※2。
タイトジャンクション(TJ)は、細胞同士の接着に関わる複数のTJ構成タンパク質(TJ因子)で形成されています。TJ因子は、細胞内で産生された後、細胞膜上へと移行します。そして、隣接するTJ因子どうしが結合する(図2)ことで細胞間を接着し、細胞間の物質通過を抑制するバリアとして機能しています(図1b)※3,4,5。つまり、第2のバリア機能においては、細胞膜上に存在するTJ因子が重要な働きを担っていると考えられます。
そこで私たちは、細胞膜上のTJ因子増加に寄与する成分を探索しました。
細胞膜上のTJ因子増加に寄与する成分の特定は、独自に構築した“生細胞免疫染色法”を用いました。これは、細胞の接着特性を活用し、細胞膜上のTJ因子を特異的に蛍光標識する抗体を採用することで、簡便かつ精度高く、細胞膜上のTJ因子を選択的に染色する方法です。
TJ因子増加の既知成分(Ca2+)及び各候補成分を表皮角化細胞に添加し、生細胞免疫染色法によりTJ因子を染色した結果、ヘパリン類似物質とピリドキシン類縁体では、コントロール群と比較して有意に蛍光強度が増加しました(図3a)。また、画像評価では、細胞膜の形に添った緑色の線(図3b)が確認されました。これらのことから、2成分が細胞膜上のTJ因子を増加させることが示されました。
次に、各成分がTJ因子を増加させるメカニズムを明らかにするため、ウエスタンブロット法を用いて、細胞全体のTJ因子発現量と細胞膜上のTJ因子発現比率を評価しました。
まず、“細胞全体のTJ因子の発現量”について評価しました。その結果、ヘパリン類似物質を添加した場合、TJ因子の発現量が有意に増加しました。また、ピリドキシン類縁体はCa2+と同程度の発現量に達することが確認されました(図4)。
続いて、“細胞全体のTJ因子発現量”に対する“細胞膜上のTJ因子発現量”の割合を算出し、コントロールの比率を1とした際の細胞膜上のTJ因子発現比率を評価しました。その結果、ピリドキシン類縁体を添加した場合、細胞膜上のTJ因子の割合が有意に増加することを確認しました(図5)。これらの結果から、ピリドキシン類縁体は、特にTJ因子を細胞膜上へ移行する働きが高いことが推測されました。
以上の結果から、ヘパリン類似物質は、細胞全体におけるTJ因子の増加に寄与し、ピリドキシン類縁体は、特に細胞膜上のTJ因子の割合の増加に寄与する可能性があることを見出しました(図6)。
乾燥肌悩みのケアには、うるおいを与えると同時に、肌本来の保水力を引き出すアプローチが重要であると考えています。年齢を重ねても、日々自分らしくありたい方々のより良い肌習慣をサポートするために、TJ研究など肌本来の強さに着目した技術開発を進めてまいります。
関連する論文
Sakamoto, H. Nishikawa, M. et al. Development of tightjunction‑strengthening compounds using a high‑throughput screening system to evaluate cell surface‑localized claudin‑1 in keratinocytes. Sci. Rep. 14, 3312. (2024)論文のライセンス情報
These all data used under CC BY 4.0 / Cropped from original関連する学会
坂本 裕樹, 西川 桃代 第123回 日本皮膚科学会総会
関連情報