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生体界面の研究に基づく成分の機能最大化技術

医薬品や化粧品では、脂溶性の有効成分が多く用いられます。特に、脂溶性のビタミンAは目の健康維持に欠かせない成分となっており、涙液安定化に必要なムチン産生や障害部位の修復に必要なヒアルロン酸産生を高める生理活性を発揮することが知られています1-3)。OTC医薬品の点眼剤では、ビタミンAは100nm以下のサイズのナノエマルションとして分散しており、使用できる界面活性剤や配合量に制限がある中、ビタミンAの機能を最大現に発揮する、Drug Delivery Systemとしてナノエマルションの構造・機能制御の研究を行っています。

1.ナノエマルションの吸着制御研究

点眼するビタミンAを角膜細胞に届けるためには、ナノエマルションは、涙液による排出に対抗して眼表面にしっかり吸着しなければなりません。そこで、ビタミンAの吸着量が最大となるナノエマルションの構造解析を行いました。小角X線散乱法でエマルション粒子の電子密度分布解析を行うと、吸着性が高いエマルションはビタミンAの周りの乳化剤の吸着密度が低く、ビタミン界面の一部が露出した状態にあることが初めてわかりました(図1) 4)

図1.(a) 小角X線散乱法によるナノエマルションの電子密度分布解析と (b) ナノエマルションにおける乳化剤吸着状態のイメージ図。

2.ナノエマルションの細胞膜透過の制御研究

ビタミンAの効能を高めるためには、その生理活性を働かせる細胞内へと浸透させる必要があります。そこで、細胞内への浸透機構を明らかにするため、細胞模倣系としてジャイアントユニラメラベシクル(GUV)を用い、ナノエマルションの作用で誘引される脂質二分子膜の時間変化を観察しました 5) 。GUVの脂質二分子膜は、ナノエマルションの作用でGUVの内側に小胞を形成して吸収する、エンドサイトーシス類似の形態変化を示しました(図2)。

図2.ナノエマルションによって誘引されたエンドサイトーシス類似のGUVの形態変化5)

この変化が実際の細胞でも起こりうるものかどうかを確認するため、ビタミンAを蛍光ラベル化して調製したナノエマルションを用い、角膜細胞へ作用させると、ナノエマルションが吸着した細胞膜からエンドサイトーシスが起こり、小胞体として細胞内に取り込まれ、細胞核に輸送される様子を確認いたしました(図3) 5)

図3.蛍光ラベル化ビタミンAナノエマルションによって誘引された角膜細胞でのエンドサイトーシスと細胞核への輸送5)
(a)観察開始直後にビタミンAを吸着した細胞膜が小胞体を形成して細胞内に取り込まれる様子。
(b)15分後細胞核周辺に小胞が集まる様子。(c),(d)は(a),(b)中の矢印上での蛍光強度分布を示す。

このような機構で効果的に細胞に取り込まれるナノエマルションは、ビタミンAの配合基準5万単位で、15万単位に相当する効能を引き出すことに成功し、高浸透型点眼剤として応用されています。

参考文献、投稿論文、研究発表

1) Y. Kubo, et al., J. Jpn. Ophthalmological Soc. (Nippon Ganka Gakkai Zasshi.) 103 (8), 580–583 (1999)
2) H. Toshida, et al., J. Nutr. Sci. Vitaminol. 58, 223–229 (2012)
3) H. Toshida, et al., Curr. Eye Res. 33, 13–18 (2008)
4) M. Matsuki, et al., Journal of Oleo Science , 63(9), 903-909 (2014)
5) M. Miyake, et al., Colloids and Surfaces B: Biointerfaces, 169, 444-452 (2018)
6) 栗岡、三宅ら、第33回日本DDS学会学術集会(2017)

研究事例紹介

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