ここでは、ちょっと変わったポスターやチラシなど宣伝広告の印刷物を展示しています。
ずっと昔から今日まで、印刷物による広告宣伝活動はとても重要でした。特にテレビのない時代には、今日よりもはるかに印刷物の果たす役割が大きかったのです。どうしたらより強いインパクトを与えることができるか、どうしたらより喜んでもらえるか、そんな工夫を凝らした宣伝広告物の数々です。
形のユニークなものやかわいらしいものをエピソードをまじえて紹介します。
こちらは1927(昭和2)年「歯に関する趣味の展覧会」のポスターです。
この展覧会は東京・丸ビル丸菱呉服店においてライオン歯磨本舗小林商店の主催で開催されたもので、歯学とか歯科衛生の見地からではなく、歯に関係する伝説や文学、趣味的といえる各種資料を展示したものでした。
このポスターは当時としてもユニークで優れた作品だったようで、「現代商業美術全集」(昭和3年、アルス発行)の第2巻「実用ポスター図案集」に掲載されています。解説には「紙のとり方を経済的に考慮して作れる変形ポスター」とあります。
デザインは河目悌二氏です。
河目氏は童画家として挿画家として1913(大正2)年から1945(昭和20)年頃に活躍された方です。一時期、ライオン歯磨本舗に籍を置いていました。ユーモラスでほのぼのとした雰囲気の画風で人気があり、児童向け雑誌などの挿し絵を多く描きました。
下の小冊子は、ライオン歯磨本舗が口腔衛生の啓発活動のために作成したもので、児童向けに大人が読んで聞かせる絵本のスタイルをとっています。
なお、最初に紹介した「歯に関する趣味の展覧会」の変形ポスターは、日本大学松戸歯学部の歯学史資料室に保管されておりましたが、2024(令和6)年1月に同大学より寄贈頂き、当社にて大切に保管しております。この変形ポスターには、河目悌二の童画家としての作風や雰囲気はありませんが、「歯」について多くの方に興味を持っていただきたいと考えた諸先輩方の創意工夫が感じられる作品ですね。
栞(1)は1922(大正11)年製のもの。
大正ロマンを醸し出しているデザインは、絵柄も上下の切り込みもおしゃれで、今日でも通用しそうです。紙質もよく色鮮やかです。
裏面は時間割表となっており、「知恵と歯は毎日磨け」という時代を感じさせる標語が印刷されています。
この標語は、当時、内務省が募集した民力涵養標語に入選した岐阜県の小学生、林一枝さんの作品です。
栞(2)は、一見したところ(1)に似ていますが、絵柄としてチューブ入のハミガキが使われているので、1938(昭和13)年~1940(昭和15)年頃のものとわかりました。このハミガキは1941(昭和16)年には製造中止となっています。なぜなら、当時のチューブは錫(すず)やアルミニウムで作られていましたが、鉄製品製造制限規則により、ハミガキのチューブには錫やアルミニウムが使用禁止となってしまったからです。
栞(3)はライオン型。ライオンの頭の部分の切り込みがかわいらしいですね。
絵柄にある「ライオン歯磨粉製丸缶入」は1925(大正14)年に発売されています。
丸缶といってもブリキ製ではなく紙製の筒でした。
栞(4)は1953(昭和28)年製のもの。
小さくてなんの特徴もない栞ですが、ほほえましいエピソードを秘めています。
栞の上部に「私は上野動物園の人気者、ライオンの“ナナ”です」と書かれています。
太平洋戦争中、トラやライオンや象など多くの動物が餌不足のためにやむなく薬殺されました。
平和が戻ってこの年、上野動物園に雌ライオンの赤ちゃんがやってくることになりました。この時、ライオンの赤ちゃんの愛称が募集されたのです。
5月2日に大々的に命名式が行われ、“ナナ”と名づけられたのでした。
この栞はこの時に作られたものです。当社は社名が社名ですから、以前から動物園やライオンに関係する催し物には、いろいろな形で協賛してきています。古くは1938(昭和13)年10月30日、阪神パークにおけるライオンの命名式にも協賛しています。
この時の名前は“勝ちゃん”と“武ちゃん”。
日中戦争の最中のことで、時代を反映した名前でした。
下(5)は円形で直径21cmもある大きなものですが、これでも栞です。
1935(昭和10)年のムシ歯予防デーで使用されたものです。真ん中で折って、上の☆印のところに紐をつけて使用するようになっています。。
裏面には、小学六年生、児玉百合子さんの「こうして日本一の健康優良児になりました」という体験談がイラストで描かれています。もちろん、児玉さんは歯をきちんと磨きムシ歯はゼロ、バランスのよい食事で健康優良児になったとあります。
左は1934(昭和9)年の「愛国航空展覧会」(大日本飛行少年団主催、ライオン歯磨本舗後援。於:東宝会館)で使用された告知チラシ。
若い女性の飛行士姿がかわいらしい切り抜き型です。ハミガキチューブの部分が開くようになっており、開けると女性飛行士のシャツ姿とライオン歯磨売出しの広告面が現れます。
下の切り抜き型のチラシは、1937(昭和12)年「潤製ライオンコドモハミガキ」が新発売された時のものです。
子供が掲げている缶の蓋を開けると広告面が現れるようになっています。
下は1938(昭和13)年、日比谷公会堂で行なわれた「祝新入学ライオンコドモ大会」(主催:ライオン児童歯科院)のプログラムです。
二つ折の状態では、缶入りハミガキの外観をしていますが、缶を開けるように開くとプログラムが現れるというわけです。写真は開いた状態で、プログラムは裏面に印刷されています。
プログラムによれば、童謡、舞踏、ピアノ演奏など多くの催し物が行われていることがわかります。
中でも子供たちがもっとも楽しみにしていたのは、ミッキーマウスやポパイやベティの映画でした。
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