洗濯用プレ洗剤をかけて放置、好きなタイミングで洗濯機へ。新たな洗濯行動を提案するために必要な、3つの要素
共働き世帯や単身世帯の増加にともない、洗濯事情も多様化している。衣類が汚れた時にすぐに洗濯することが難しい人、休日にまとめ洗いをする人も少なくない。ライオンが行った生活者実態調査から、開発チームのメンバーは、「いつもの洗剤だけでは衣類の汚れ落ちに満足できない」という不満の声があることに気づいた。また、従来の洗濯用プレ洗剤や漂白剤を用いた洗濯前処理は、洗濯機に衣類をいれる直前に行う必要があることに加え、汚れや衣類の種類によって、使用するプレ洗剤や使用方法を考えなければならず、面倒だという不満の声もあった。このような背景から、生活者に対してどのような使い方や洗い方を提案することが、洗濯への不満解消に繋がるのか、マーケティング部門と研究の開発チームが一丸となって議論を繰り返した。議論の結果、「圧倒的な汚れ落ち性能」と「汚れの種類や使うタイミングを気にせず使える手軽さ」を両立した洗濯用プレ洗剤という開発コンセプトにたどり着いた。すなわち、「汚れが気になったらかけてほっとくだけ」という新たな洗濯習慣の提案を目指したのである。
小熊研究員は、「開発当初は製品のイメージが具体化できていない状況で、コンセプトをどのように具現化していくのか、色々な方向性を試しながら検討を進めました。簡単ではありませんでしたが、これまでにない新しいものを生み出そうとしていることに非常にワクワクしていましたし、今までの開発の中で一番楽しかったかもしれません」と当時を振り返る。
こうして生活者が満足できる洗濯方法を実現するために不可欠な、「様々な汚れに対する高い洗浄力」、「“かけてほっとく”という新たな使い方でも、不具合なく安心して使えること」、「使いやすい容器形状」の3要素を兼ね備えた、まったく新しい洗濯用プレ洗剤の開発がスタートした。
長時間塗布のカギは、乾燥防止
これまでにない洗濯用プレ洗剤の実現に向け、まず取り組んだのが「様々な汚れに対する高い洗浄力」をもった組成の開発だった。
この組成の開発はかなり苦労したと小熊研究員は語る。
「従来の洗濯用プレ洗剤では使用実績がない原料まで検討範囲を広げてスクリーニングし、数百種類以上の組み合わせを検討していきました。また、想定される汚れも、エリそで汚れや食べこぼし、泥、ファンデーションなど多種多様なモデルを作成し、既存技術も応用しながら、様々な汚れに対応できる新たな組成を作り上げていきました」
従来の洗濯用プレ洗剤や漂白剤は、汚れに塗ってすぐに洗濯する使用方法を推奨しており、処理した後に長時間放置されることは想定していない。そこで、「かけてほっとく」という新たな使用方法に対しても検討を重ねた。ライオンの洗濯用プレ洗剤として初となる使用方法の提案であったため、幅広い生活者のあらゆる使用シーンを想定し、起こり得るリスクを洗い出しながら、性能の評価は進められた。
評価方法の設定を担当した花田研究員は、「我々が考え得る限りの使用シーンを想定した評価基準を設定し、それらを一つひとつチーム内で検討していきました。かけてほっとく”場所”は、洗濯かごなのか、洗濯機内なのか、最大どの程度の時間放置されるのかなど、想定シーンは多岐にわたりました。具体的には、洗濯物が多い時や少ない時、周りの洗濯物が濡れている時、密閉された場所に置かれた時など、放置される条件ごとの温度や湿度のデータを集め、評価方法を設定していきました。『様々な生活シーンで使えて、きちんと性能が出せる』ことは当たり前の品質ですが、それを証明することは非常に大変でした」と、過去の検討の難しさを語る。
また、技術を開発していく中で新たに検討すべきポイントも浮かび上がってきた、と小倉研究員。
「一般的な洗濯用プレ洗剤は、汚れにかけて放置すると、時間が経つにつれて汚れが広がり、より落ちにくくなることもあるので、かけてすぐに洗濯する使用方法が推奨されています。これは放置中に洗濯用プレ洗剤が、汚れとともに衣類にこびりついてしてしまうことが要因であると考えています。かけて長時間放置するという新しい使い方を可能にするため、この課題解決も組成開発のポイントに加わりました。」
そこでキー成分として着目したのが、グリセリンの配合だった。
「今回、過去の検討結果を参考に、主には分野外の当社ビューティケア製品で保湿を目的として配合されているグリセリンを活用しました。グリセリンを配合することで、長時間ほっておいても汚れ・洗剤のこびりつきを防ぐことができ、洗浄力の向上にもつながることがわかったんです。改めて、新しい組成を開発する際には、広い視野での検討が必要だと実感しました」と小熊研究員。
また、最近では生活者の清潔志向が高まりを見せており、衣類やマスクに付着した細菌・ウイルスの除去も非常に注目されるポイントとなっている。そこで、汚れ落ちの性能だけではなく、「除菌・ウイルス除去」という性能の付与にもチャレンジ。さらに、立川研究員はより製品に納得感を持って使用してもらうために、性能の可視化検討を開始した。
「除菌・ウイルス除去性能は、性能を目で確認することができないため、生活シーンで機能がきちんと発揮されていることを生活者に見える形にすることが重要であると考えました。そこで、除菌・ウイルス除去性能の可視化を検討しました。例えば、除菌性能については、着用後衣類の中でも最も菌数が多いとされる靴下で評価をしました。実際に研究員自身が着用し、その靴下に付着した菌を培養することで、本製品の使用有無による菌の増殖抑制効果を可視化したんです。」
生活者のニーズを見極め、高い洗浄力とかけてほっとくだけの洗浄技術を確立。この技術によって、洗濯用プレ洗剤「ブライトSTRONG 衣類の爽快シャワー」が誕生し、「汚れが気になったらかけてほっとくだけの洗濯」という新たな使用方法の提案が可能となった。
“気軽に使える”を実現した秘訣は「シャワー型ボトル」
“洗濯”は代表的な家事の一部として、当たり前に溶け込んでいる生活習慣の一つ。新しい習慣を提案するには、より簡便に直感的に使えることが重要だと開発チームは考えた。そこでたどり着いたのが、「どんな汚れにも気軽に使える容器」という方向性。マーケティングや容器開発を担う部門と議論を重ね、多数のアイデアの中から「シャワー型ボトル」を導き出した。
初期の容器サンプル製作を担当したのは、花田研究員。
「ライオンの衣類ケアの分野では、シャワー型ボトルの検討は初の試みであったため、その実現に向けては、多彩な工夫を盛り込んで設計しました。安全面では、液だれを防止する弁を使用することで、液が垂れてしまうリスクの低減を目指しました。また、汚れの大きさにも幅広く対応できるように、衣類に近づければ狭い範囲の汚れに、衣類から離せば広い範囲の汚れにかけられるような設計になっています」
調味料のフタなどで広く使用されている、ヒンジキャップを採用して片手でも蓋を開けられるようにしたことや、ボトルを握る力加減で液量をコントロールできるソフトボトルというのも細かなこだわりだと笑顔を見せる。
容器開発にともない、洗剤の組成にも工夫が求められた。花田研究員は「一言でシャワー型ボトルとは言っても、シャワー状に液を出すというだけでも実はかなり苦労しました。洗剤は水とは違って界面活性剤が配合されているため、液がまとまりやすく、シャワー状に出すことが難しいのです。そこで組成と容器の両軸で検討を重ね、界面活性剤が配合されていてもシャワー状に出すことができる組み合わせを見つけ出しました。」と振り返る。
“これまでにない製品”を生むには、生活者の行動を考え抜き、検討プロセスさえも見直すことが大切
立川研究員は、除菌・ウイルス除去性能の評価設計に加え、印象的だったエピソードがもう一つあるという。
「普段の生活の中で製品前段階である試作品を使ってもらう“ユーザーテスト”も印象に残っています。『ブライトSTRONG
衣類の爽快シャワー』は新しい使用方法を提案する製品のため、“かけてほっとく”という使い方が習慣化するか、洗濯行動の一部に取り入れるメリットが伝わるかといった不安がありました。しかし、実際に使っていただくと、製品の手軽さや効果を実感したという生活者の声をもらうことができ、自信につながりました。また、「子どもと一緒に楽しく使用することができた」、「脱いで洗濯カゴに入れるだけだった家族でも手軽に使用できた」などの声もあり、それまであまり主体的に洗濯を行なっていなかった人も使用できるなど、我々の想定していなかった“家事の広がり”という価値まで見えてきたのです」
小倉研究員も、「既存品の改良であれば従来の使い方からは大きく変わりません。しかし、新しい行動や習慣を提案する製品を開発するには、幅広い生活者の多様な生活シーンやニーズ、そしてリスクまでも網羅的に想定しなければいけません。この製品の開発では、メンバー全員で生活者を考え抜く協働体制だったことが、これまでにない新しい生活習慣の提案につながったのだと思います」と、振り返る。
二人のコメントを受け、小熊研究員は「社内外に対し“その設計や機能によって、どれほど生活が良くなるか”を示すことが重要となります。従来にはない新たな提案だからこそ、社内を巻き込んで開発を進めていくには、設計や機能、性能の良さを実際に手に取り、使用できる形に落とし込んで検討していく過程は、研究者として不可欠であると改めて感じました。今後も、“日々の生活をより良くする製品”の開発に、積極的に向き合っていきたいと思います」と締めくくった。
普段当たり前と思っている家事の行動にも、新たな価値を提案し続ける。ライオンの研究開発が実現したいのは、より良い生活習慣づくりで人々の毎日に貢献すること。すべての研究員がこの思いを胸に、日々、研究を続けている。
・所属は取材当時のものです(2022年5月取材)