家庭内の洗濯では、衣類を洗うための洗剤に加え、衣類の風合いを保つために柔軟仕上げ剤(以下、柔軟剤)が使われており、その使用率は約80%にのぼります※1。当社の調査によれば、最近の柔軟剤は、従来求められている「柔らかな」風合いに加えて、「さらりとした」風合いが求められており※2、その傾向は特にトップスや肌着など、1日中着用することが多く発汗してベタつきやすい衣類に強くみられました。
そこで、衣類の「さらりとした」風合いが、乾燥状態だけでなく汗をかいたような濡れた状態でも実感できる、これまでにない柔軟剤の開発に向け、様々な風合い付与成分を評価しました。その結果、当社独自の開発成分である「シリコーンA」に優れた風合い付与効果があることを見出しました。そこで、このシリコーンAの風合い付与効果に寄与する因子を解明することを目的に、特に「さらりとした」風合いのニーズが高まる汗をかいたような濡れた状態に焦点を当て、シリコーンAが衣類の繊維表面に与える影響を解析しました。
※1:洗濯実態調査(2022年9月、当社調べ、n=2,000)
※2:洗濯行動調査(2021年6月、当社調べ、n=842)
衣類の風合いを感じる場面として、衣類表面に直接肌が触れた時、特に衣類表面に手を滑らせた時であると仮定し、「シリコーンA配合柔軟剤で処理をしたときの衣類※3の表面」と「薄膜化したシリコーンA」の表面粘性を測定しました。衣類表面の物性を評価する手法の1つとして、剛体振り子試験機を用いた表面粘性の測定があります。通常、剛体振り子の振れ幅は、振り子が接する衣類の表面粘性が高い場合は、抵抗がかかるため減衰が早く、表面粘性が低い場合は減衰が遅くなり、抵抗を感じにくいと推察できます(図1)。今回、この剛体振り子試験機の振れ幅の減衰率(以下、対数減衰率)から、表面粘性を評価しました。その結果、シリコーンA配合柔軟剤で処理した衣類は、従来の柔軟成分であるカチオン界面活性剤で処理した衣類と比較し、表面粘性が低いことを見出しました(図2)。さらに、各成分膜の表面粘性を測定したところ、シリコーンAでは本来の表面粘性の低さを維持するのに対し、カチオン界面活性剤では水分によってゲル状に変化し、粘性が増大することを確認しました(図3)。このことから、シリコーンAの成分自体は衣類表面の水分とは混ざり合わず、衣類表面の粘性が増大することを抑制し、汗をかいたときのような濡れた状態のべたつき感を緩和することによって「さらりとした」風合いを実現していると推定しました。
※3:汗をかいたときのような濡れた状態を想定した水分量を噴射
衣類内部に汗が吸収されることで、衣類が肌に張り付きにくくなり、「さらりとした」風合いを付与できる可能性があると仮定し、シリコーンAの吸水性を評価しました。その結果、シリコーンAで処理した衣類の吸水速度はカチオン界面活性剤処理の衣類よりも高い値を示すことがわかりました(図4)。このことから従来のカチオン性界面活性剤配合柔軟剤と比較して、シリコーンA配合柔軟剤で洗濯した衣類では、衣類表面の水分を素早く吸収するため、汗をかいたときのような濡れた状態でも「さらりとした」風合いになると考えられます。
「さらりとした」風合い付与成分であるシリコーンAを配合した衣料用柔軟剤として、「ソフラン エアリス」を開発しました。今後は、本研究で確立した衣類の風合い付与技術および表面解析技術を深化させ、お客様の生活に寄り添った製品を提案していきます。
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