当社は、生活者に安心・安全で信頼性のある製品の提供を目指し、機能解析や品質保証の観点から分析科学に関する研究を進めています。生活者が求める機能を発揮するためには、製品の品質を常に一定に保つ必要があります。分析科学は、製品中の成分を検出し、定量する手法であり、製品開発の様々な過程で活用することで、製品の特性を把握し、品質を担保しています。また、新たな価値を提供する製品の開発に向けて、当社独自の分析技術の開発も進めています。
近年、好みの香りや香りの持続性で衣料用柔軟仕上げ剤(以下、柔軟剤)を購入する生活者が増えており※1、製品の香りの幅は広がりをみせています。特に柔軟剤における香りは、製品のイメージやコンセプトを伝えるとともに、使用場面における使い心地につながるなど、製品の価値を向上させる上で非常に重要となります。また、生活者が付加価値を実感するためには、柔軟剤中の香りの品質を保つことも必要です。香りは、複数の香料※2成分で構成されており、微量な成分が香りに影響を与えることから、香料を分析する際は、各成分の構造や配合比率を変化させることなく、微量な成分まで抽出し、分析する手法が求められます。
一般的な香料成分の抽出法として、液-液抽出法が知られています※3。液-液抽出法とは、水と有機溶媒※4のように互いに混ざり合わない溶媒を用いて、試料中の目的物質が二液間のどちらに存在しやすいかの性質を利用することで、目的物質を抽出する手法です。しかし、この手法を柔軟剤に適用すると、柔軟剤中に配合されている各種界面活性剤の働きにより、本来混ざり合わない2つの溶媒が混ざり合った状態となり、エマルションという会合体を形成するため、溶媒が二層に分かれない状態になります。柔軟剤中の香料成分は、この形成されたエマルションに取り込まれることで、抽出が困難となるため(図1)、界面活性剤が含まれる柔軟剤中の香料を高い再現性で定量する分析法はこれまで報告されていませんでした。
そこで当社は、界面活性剤によるエマルション形成を抑制することで、柔軟剤中の香料成分を抽出する手法の開発に着手しました。具現化に向けては、2つの溶媒が分離しにくく、目的物質の抽出に影響を与える場合に有用であることが知られる、ケイソウ土を充填したカラム(以下、ケイソウ土カラム)による抽出法で検討しました。ケイソウ土は、藻類の一種である珪藻の殻が化石化した堆積物で、数μm 以下の小さな穴が多数存在し、体積当たりの表面積が非常に大きいため、水や油分を大量に保持できることが知られています。この性質を利用したケイソウ土カラムを用いて、水に溶解した試料を流すと、試料がケイソウ土内へ小さな液滴となって分散します。そのため、後から有機溶媒を流しても、原理的には直接触れることができないため、エマルションを形成することなく試料の抽出が可能となります。しかし、高濃度の界面活性剤を含む柔軟剤では、単純にケイソウ土カラムを活用するだけではエマルションの形成を抑制しきれないことを確認しました。
当社は、この手法の活用に加え、過去の分析科学に関する研究知見などを元に抽出条件を精査した結果、無機塩の飽和水溶液に柔軟剤を溶解することで、エマルションの形成を抑制できることを発見しました。しかし、従来の液-液抽出法で、無機塩の飽和水溶液に柔軟剤を溶解した場合、エマルションの形成は抑制されませんでした。そこで、ケイソウ土カラムによる抽出法で有用な条件と考え、さらにエーテル系の溶媒と、親水性から疎水性の成分まで溶解できるアセトンを最適な比率で混合させた溶媒を流すことで、ケイソウ土中の香料成分を溶離し、目標とする香料回収率を満足することを確認しました(図2、3)※5。
以上の結果から、界面活性剤が含まれる柔軟剤中の香料成分を抽出する手法を実現し、柔軟剤中の香料成分の割合を正確に分析することが可能となりました。今回開発した抽出法は、衣料用をはじめとする各種液体洗剤にも適用可能です※6。
今後も、分析科学の研究をさらに追求し、技術を進化させ続けることで、製品の品質保証に貢献し、生活者に安心・安全で信頼性のある製品を提供していきます。
関連情報