私は、2012年に工業高等専門学校(高専)からLIONに入社し、以来、明石工場で勤務しています。一貫してハミガキ粉の生産を担当していましたが、入社当初はオペレーターとして生産に直接携わっていました。20歳そこそこで就職したての自分は、ハミガキ粉の原料を投入する釜の大きさや機械を動かす面白さを感じると同時に、その難しさと格闘していました。
2014年からは、自らの手で作るのではなくハミガキ粉を生産する新しい設備の導入や、新製品や改良品など研究所が開発したものを明石工場で生産するための検証や導入を担当しています。後者の仕事で工場が所有する機械だけでは対応できない場合、新たな設備の追加も考えます。
生産技術の導入で何より考えているのは、どれだけ現場の作り手の労力を低減できるかや、どこまで設備を使いやすくできるかです。その役割を果たすためには、現場とのコミュニケーションが欠かせません。かつて自分自身が一人の作り手として生産現場で格闘していた時の気持ちを呼び起こしながら、今の作り手の声とまっすぐ向き合うように意識しています。
現場の作り手の声と向き合う一方、私たちは研究所の意見にも傾け、両者の要望が同時に満たされるように調整する役割を担います。もちろん、どちらにも納得してもらえる答えが出せるよう常に努力しますが、時には、相反する意見に直面しながら、針の穴を通すような解決策を模索し、悩み続けることもあります。
例えば、ハミガキ粉を作る材料には、水酸化ナトリウムという手に付着する危険な原料があるのですが、手で触りたくないという現場の意見と、品質と共に効率を求めて人の手に頼りたい研究所の意見の狭間で答えの出ない状況に直面したことがありました。最終的には、ギリギリの折衷案にこぎつけましたが、その経験を通じて工場の先輩、設備メーカーの知恵やノウハウから多くを学びました。
生産技術の導入と聞くと、言葉の通り技術面、設備面の仕事を想像されるかもしれません。しかし、実際にやってみると私自身も想像しなかったほどコミュニケーション力、もっと言えば人間力が問われる仕事であることに気づかされます。
生産導入のキャリアを積み重ねてきて、私は自分の仕事に大きな目標を掲げるようになりました。それは、「どんな新製品の導入があってもできないと言わない明石工場」を実現することです。工場は製品を開発する場ではなく、生産する場です。そのため、未来のニーズに合わせた製品開発は行えませんが、未来のより良い習慣を変えるほどの可能性に満ちた製品の生産を担うことはできます。
私はハミガキ粉の生産一筋でしたが、今後、洗剤など別のジャンルや分野の仕事も経験して、複数の領域にまたがる技術や観点を吸収していきたいと考えています。洗剤の仕事で得た視点がハミガキ粉の生産現場で活きるかもしれませんし、逆の可能性も十分にあり得るからです。
直近では、明石工場内の新しい棟で洗口液の生産ラインの導入を担当しましたが、担当する製品が広がると、ひとつの世界が広がるように新しい知識が広がっていく感覚がありました。「どんな新製品の導入があってもできないと言わない」ために、まだまだ意欲的に知識量や経験を増やしていきたいと思います。
あらためて生産技術を導入するやりがいに立ち返ると、私はやはり、現場の作り手を少しでも楽にしてあげたいという想いにたどり着きます。AIやロボットなどの最新技術についても同じで、作り手が楽になるのであれば積極的に取り入れ、現場とコミュニケーションをしっかり取った上で最善の導入を実現していきたいと考えています。
というのも、自分は作り手の時、どんなに忙しくても生産業務だけに終始せず「改善について考えたい」「多くのことを学ぶ時間がほしい」とつねづね思っていました。作り手だからこその気づきもあるはずで、その視点はぜひ活かされるべきであるし、何より対話を重ねて一緒によりよい生産ラインを形にしたいのです。その余白を創造するのは、生産導入に携わる者の役目です。
そんな考えに至ったのは、入社後の様々な体験があればこそでしょう。学生時代の自分には思いもよらなかった成長が、明石工場で待っていました。私と同じように高専で学ぶみなさんも、この世界に飛び込んでみてください。恐れずにチャレンジするほど、想像以上に成長するチャンスも広がっていくことが、身をもって実感されるはずです。