お客様問い合わせ対応
profile
1992年、22歳でライオンに入社。当時の広報部に配属されて以降、一貫してお客様対応の業務を担当。19歳の時に失明後、昔から好きだったパソコンを使う仕事に就きたいと考え、職業訓練を受けスキルを磨いた。読み込みは音声、書き込みはキーボードで、パソコン業務を不自由なくこなす。
専門学生の時に交通事故に遭い、視力を失いました。その当時、視覚障がいの人が就く職業といえば鍼灸師が一般的で、民間企業に就職するケースはほとんどありませんでした。しかし、どうしても鍼灸師になるのは抵抗があって、パソコンを使った速記の職能訓練を受けていました。その訓練センターにライオンから視覚障がい者の募集の話がきて、幸運なことに、私は民間企業に入ることができたのです。
1988年のコンパクト洗剤の発売で洗濯用洗剤の使い方が大きく変わる際、ライオンは製品を安心して使っていただくために、視覚障がい者向けの点字の手引き書を発行しました。当時はまだ他社がやっていない取り組みでしたが、継続してやっていこうということで、点字の分かる人材として私が入社することになったわけです。
視覚障がい者の方々からは、大きな反響がありましたね。当初は点字だけだったものが大活字版、音声版も作製するようになり、発信する内容も製品情報から生活情報へと次第に広がってきています。今は視覚障がい者の情報環境も変わり、音声ソフト付きのパソコンを利用してメールを使っている方がだいぶ増えました。メールを含め、約1,000人の方々に定期的に情報をお届けしています。絶対数としては少ないかもしれませんが、その方々にとっては貴重な情報源であり、使命感と責任感を強く感じています。「とても役に立ちました」などの声をいただきますが、そうした読者の方々の支えがあるからこそ、私もここまで仕事を続けてこられたのだと思っています。
私自身の業務は、現在はメールと電話によるお客様対応が主になっています。入社して5、6年過ぎた頃、視覚障がい者向けの情報発信の仕事も軌道に乗り、「これからは自分の仕事の幅を広げていきたい」と思っていました。当時の上司がそのことに気付いてくれまして、お客様からの電話対応も担当するようになったのです。視覚障がい者向けの情報発信業務を通じて、ライオン製品に関する知識量には自信がありました。電話の鳴る音を、外線と内線で変えてもらうとか、録音できる機能を付けてもらうといったサポートはしてもらいましたが、電話対応はスムーズにできていたと思います。
この時の上司は私の可能性を大いに広げてくれた人で、ある時は、視覚障がい者の方から要望のあった、製品を実際に使ってみる講習会の講師を任されました。セーターの洗い方や掃除の仕方など、私自身がやってみたうえで講師役を務めたのです。そうした様々な経験を積んでいく中で、製品についての理解が深まっていきました。そのことが今の業務に役立っているばかりでなく、今の自分に対する自信であったり、次のチャレンジに向けた土台になっていたりするのだと思います。
お客様問い合わせ対応は、お客様からいただいた声を的確に社内に伝え、製品の改善につなげていくという重要な役割を担う仕事で、たいへんやりがいを感じています。お客様の声を反映して、表示の仕方や製品の形状を改善するなど、事例はたくさんあります。そうした「製品の改善につなげるプロセス」にもっと貢献していくことが、私の次の挑戦だと思っています。
点字ディスプレイで作業
キーボードを叩くと点字を表示してくれる機器です。電話対応などの際、この機器を使ってメモを取ります。
視覚障がい者向け冊子の制作
以前に担当した点字、大活字の冊子。製品情報を年2回発行しているほか、生活情報を点字で提供するものも制作しています。
移動中は点字ブロックを活用
要望していないのに、いつの間にか正門と通用口を結ぶ点字ブロックが設置されており、会社の対応に感謝しています。
私は最寄りのJRの駅まで10分以上歩いて帰るのですが、ほとんど毎日、誰かしら社員の方が「駅まで一緒に帰りましょう」と声を掛けてくれます。入社以来、社内のコミュニケーションで困ったことは一度もありませんし、関わり方はわからなくとも「一緒にやろう」という意思を感じさせる人ばかりです。ライオンは、そういう社風の会社です。しかし、そこに甘えず、挑戦し続け、自分のフィールドを広げていくことが大事なのだと思います。