ライオンでは「サステナブルなSCM(サプライチェーンマネジメント)基盤構築」を掲げ、「経営・販売・生産等のデータ連携(ワンナンバー化)による適正在庫を目指して「AIを活用した需要予測」に挑戦しています。プロジェクトに参画するデータサイエンティストとビジネスアーキテクトが仕事の実際を紹介します。
データサイエンティスト×ビジネスアーキテクト
ライオンでは「サステナブルなSCM(サプライチェーンマネジメント)基盤構築」を掲げ、「経営・販売・生産等のデータ連携(ワンナンバー化)による適正在庫を目指して「AIを活用した需要予測」に挑戦しています。プロジェクトに参画するデータサイエンティストとビジネスアーキテクトが仕事の実際を紹介します。
データサイエンティスト
今取り組んでいるのは、AIを活用した製品の需要予測です。在庫の適正化と、商品供給最適化を目指して高精度な需要予測はとても重要です。需要予測は製品のライフサイクルのフェーズや需要特性などによってアプローチが異なり、複雑なものです。そこで今回、最適な予測方法の検討を兼ねてAIを活用した需要予測モデルの実用化に向けたプロジェクトに複数の部門で参画・検討を進めています。
需要予測の数値は、生産計画や購買計画など会社の計画策定全般のトリガーとなる数字です。今回のプロジェクトは数百ものアイテムを対象としておりステークホルダーも多く、難易度の高さを実感しています。言い換えると、成果を上げれば工場から小売店の店頭までスムーズな商品の流れが実現し、社内はもちろん、サプライチェーンの上流・下流の社外の方々にも喜んでいただける大きな可能性があるということです。苦労をしつつ、大きな使命感を持って進めています。本プロジェクトは試行運用の最中であり、まだ道半ば。実用化まではもう少し時間がかかりますが、成果を上げるその日を信じて進めています。
私はデータサイエンティストとして、モデル構築全般を任されており、要件のヒアリングや学習データの選定、機械学習によるモデル構築などを担当しています。データサイエンティストは「デジタル技術を使って課題を解決する人」という印象が強いかもしれませんが、私は全ての課題がデジタル技術だけで解決できるものとは考えていません。専門的な知識を持っているからこそ、本当にデジタル技術を使えば解決できるものなのかをしっかりと評価することも大切な仕事だと思っています。最適解を見つけるためにはデジタルスキルを習得するだけでなく、ヒアリングなどを含めた真の課題の探求も重要です。
検証段階で一部の製品でAIによるモデル予測と人による予測を比較したところ、人による予測が良い結果を出したケースもありました。AIによる需要予測が実用化すれば、さまざまな計画を素早く修正することも可能になります。一方で、AIの予測モデルが有効な商品や条件については慎重な検討が必要と考えています。
今回のプロジェクトでは、インフラ構築にGoogle Cloudを使い、BigQueryとVertex AIを活用した環境構築を行いました。今まで、私の業務はAWSメインなものが多く、Google Cloud初学者ではありましたが、使いやすかったという印象です。需要予測モデルの構築には、LightGBMを用いています。LightGBMは決定木系のアルゴリズムなので、1つのモデルを組むことで予測が可能になり、モデル管理を効率化できます。合わせて比較的精度が良くなる場合が多いという点がLightGBMを採用した経緯です。
現状では検証実験が完了し、一部の製品カテゴリで試行運用をスタートしています。精度の高い需要予測はAIだけでは完結しない、というのが私の認識です。今後、業務部門が行う人による需要予測値とのギャップを照合して起こりうるリスクなどの認識をすり合わせることで、より精度の高い予測モデルを構築していけると考えています。人員リソースの省力化を行うという観点では、AI活用はとても効果的ですが、ただデータを鵜呑みにするのではなく「どう使うべきか」を人の頭で考えていくことが必要です。
私は新卒で入社し、今年で4年目になりますが、これまでには制汗剤の需要予測モデルの構築などにも挑戦しています。ライオンでは若手が裁量の大きな立場を任されることは特別ではありません。私が所属するデータサイエンスグループは若い組織で、私よりも年次が若い社員がたくさんいます。私自身も年次で見れば若手と言われるのでしょうが、グループ内ではむしろ引っ張っていく側の立場だと感じています。
まだ漠然としていますが、将来は何かしら特定の事業ドメインの中でデータサイエンティストとしてのキャリアを確立していきたいと考えています。事業会社で働くことは、自身が手掛けたモデルやシステムが事業に貢献し、成果を上げる様子を最後まで見届けられる点が大きな魅力です。私にとって会社とは、自分のスキルを役立てる場所。社外のコンペなどにも参加しながらスキルアップを図り、会社に還元できればうれしいです。
ビジネスアーキテクト
AIを活用した需要予測を含め、経営・販売・生産等のデータを一つのデータでつなぐ(ワンナンバー化)取組にビジネスアーキテクトとして参加しています。ライオンが目指すサステナブルなSCMとは、変化に対する柔軟性と強靭性を持ったSCMを指します。関連部門が共通のデータを見て判断できる環境をつくることで、実行性の高い計画策定や状況に合わせた修正などが可能になります。DX化によってデータ連携を促進し、柔軟性と強靭性を生みだそうというのがこの取り組みの目的です。
今まで、生産部門は生産部門が把握しているデータ、販売部門は販売部門が把握しているデータ、というように、部門ごとに別々のデータを元にして生産計画や販売計画が立てられていました。見ているデータが違うと、さまざまな問題が生じ、計画の実行を妨げてしまう可能性があります。たとえば販売部門の中で販売目標や生産数を合意したとしても、生産部門からすると生産能力がキャパシティに追いつかないというギャップが生じるということなどです。
私がプロジェクトに参加する前の ことですが、ライオンは2022年5月に基幹業務システムであるSAP S/4HANA®を導入しました。以前は、部門ごとに異なる管理システムを使用していたため、データ連携の際に、複数のシステム間でデータをやり取りする必要があり、時間と手間がかかっていました。SAP S/4HANA®を導入後データ連携が効率化され、部門間の連携がスムーズになりました。現在、SAP S/4HANA®を活用し、ワンナンバー化を推進することで、さらなる業務効率化を目指しています。
今回は私たちデジタル部門と一緒に、営業部門やサプライチェーン関連部門といった業務部門のメンバーが取り組むプロジェクトです。デジタル部門からは若手が抜擢され、年次を問わず挑戦させてくれています。これはライオンならではの良さではないでしょうか。データサイエンティストたちと直接関わるのは今回が初めてなのですが、知識量も多くスピード感のある仕事ぶりに刺激をもらう毎日です。
ビジネスアーキテクトは、システム化に向けて戦略立案・企画設計などを担い、全体を推進する役割です。推進する過程で詳細を設計・構築するデータサイエンティストと組んで仕事をすることもあります。どのメンバーも持ち場の業務知識には精通していますが、違う分野となるとわからないこともあります。そこで、ビジネスアーキテクトはメンバー間で横断的に認識を合わせて計画を進めていく「橋渡し」としての目が求められています。実際にプログラミングをすることはありませんが、需要予測に使う学習データの準備も私の役割です。
私の場合、大学では西欧経済史を専攻しており、もともとITを専門に学んできたわけではありません。入社後、デジタル部門へ配属となり、コールセンターや会計の分野のシステム導入・改修に際してプロジェクト管理を手掛けた経緯があります。プロジェクトメンバーの中にはITに詳しくない方もいますが、私も気持ちがわかる分、寄り添った対応を心がけています。たとえばなるべく専門用語を使わずに、わかりやすく説明するといった点は特に意識しています。
需要予測に関しては試行運用が始まっていますので、デジタル部門と関連部門との間に入って実用化を進めているところです。せっかく高精度な予測モデルを構築できても、現場で使われないことには成果は生まれません。ですから「予測モデルをどのように使っていくか」という方向性や業務方法などについても業務部門の方々としっかり話し合うようにしています。業務部門の業務については私も詳しくない部分がありますが、ITの視点を活かして推進したいと考えています。現場からは、需要予測システムを活用できる業務の設計を要望され、デジタル部門はツール提供だけでなく、業務フローの見直しや、予測データに基づいた意思決定支援など、多角的なサポートを行っています。ただツールを提供するだけでなく、自分たちで業務を変える取り組みの中心になれることには大変やりがいを感じています。
ビジネスアーキテクトとして今までにさまざまなプロジェクトを経験してきましたが、どのプロジェクトにも共通して必要なのは「相手の立場になって考える力」だと実感しています。業務部門とデジタル部門の間で調整をするためには、業務部門が日頃何に困っていて、何を求めているのか等を理解すること。そして客観的視点を交えながら課題を一緒に探し、デジタル部門として何ができるのかを考えること。今回のようにさまざまな部門が関わるプロジェクトにおいては広い視野を持つことも必要ですし、過去の経験が活きていると感じます。また多様な提案ができるように、ITの情報には常にアンテナを張ることも意識しています。外部のイベントなどには積極的に参加してトレンドをこまめにチェックします。
このプロジェクトは、メーカーの根幹となる業務に関わる重要な取り組みであり、大きな責任とやりがいがあります。日頃から営業部門を含めた社員同士で在庫管理について意見交換を行っており、商品の安定供給の重要性を認識しています。このプロジェクトの成功は、会社の業績向上だけでなく、顧客満足度の向上にも直結すると確信しており、強い責任感を持って取り組んでいます。
将来は、国内外の方々と協力して取り組むようなグローバルプロジェクトに参加することが目標です。これまでのプロジェクトで学んだ知識やDXプロジェクトを推進した経験を活かしながら、海外も含めた「オールライオン」での業務改革に貢献することを目標にがんばっていきます。
AIを活用した需要予測のプロジェクトは検証実験を終え、試行運用のステップへと進みました。実用化に向けてプロジェクトメンバーひとりひとりが熱い思いと共に挑戦を続けています。ライオン製品を必要としてくれるお客さまへ速やかにお届けするために。サステナブルなSCM構築への道は、一歩一歩、着実に前進しています。